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【具体例で学ぶ】SaaS KPI 入門 2018(MRR, ARR, Customer / Revenue Churn Rate, LTV, CPA)

この記事はAutoScale Advent Calendar 2018 - Qiitaの6日目です。

こんにちは、小西です。

スマートで効率的なTwitter アカウント管理ツール「SocialDog」というサービスを運営しているAutoScale という会社の代表をしています。

SaaS ビジネスでは、最重要指標として、MRR, ARR, Customer / Revenue Churn Rate, CPA, LTV などといった指標があります。

SocialDog もサブスクプション型の SaaS 型サービスなので、これらの指標を日々見ています。

今回の記事では、できるだけ具体例を交えながら、なぜこれらの指標が必要なのか、どんな指標なのか、どうやって使うのか、を書いてみます。

なぜこれらの指標が必要?

売上は様々な施策、影響の最終結果

ふつう、SaaS のサービスに限らず、事業の成否を決めるのは、月次・年次の売上の金額だと思います。 そこで売上の推移をグラフにしたり、前年比・前月比で何パーセント成長したかを計算したりしますが、その数字は

  • 新規のお客さんの増減
    • 広告費の増減
    • バズった
  • プラン設計の変更
  • 割引キャンペーンなどの実施
  • サービスの新機能の追加
  • メール配信を行ったことで、解約を忘れていたユーザーの解約が増えた

などなど、期間中に行ったすべての要因が合わさった数字なので、売上の増減だけを見ても「何がうまくいったのか」「本当にうまくいっているのか」、売上の中身はよくわかりません。

月額プラン・年額プランがある場合

SocialDog のように月額プランと年額プランがあるようなサービスの場合、年額プランの売上は初月に入るものの、サービスは翌月から11ヶ月提供しなくてはならないため、単純に売上だけで見てしまうと、売上だけ最初に計上され、あとからコストだけがかかることになってしまいます。

また、年額プランの顧客の割合によって、初月の売上が大きく変わります。

例えば、年額プランは年額10万円、月額プランが月額1万円の場合、ある月に12人の新規顧客がいたとして、年額プランの人が2人と4人だと以下のような違いがあります。

月額(人) 年額プラン(人) 初月売上(万円) 2-12ヶ月目売上(万円) 1年間の合計売上(万円)
10人 2人 1 * 10 + 10 * 2 = 30 10 30 + 10 * 11 = 140
8人 4人 1 * 8 + 10 * 4 = 48 8 48 + 8 * 11 = 136

人数がたった2人変わっただけ(年額プラン選択率が15%変わっただけ)で、初月の売上は30万円と48万円でかなり異なっています。 初月の売上は1.6倍ですが、1年間の合計売上はほとんど同じです。これでは初月の売上で好調!と判断するのは危険そうです。

MRR (Monthly Recurring Revenue/月間定額収益)

そこで、売上を予測しやすくし、売上に似た数字「MRR」という指標を導入します。

MRRは月間で決まって入ってくる収益です。

サービスにもよりますが、毎月の売上は、以下2種類に分類されます。

  • 毎月決まって発生する売上(月額プラン、年額プランなど。Product Revenue や Reccuring Revenueという)
  • 上記以外の「1回だけ」発生する売上(初期費用やポイント購入、追加枠購入など。Service Revenueという)

このうち上については、毎月決まった額が入ってくるので予測が立てやすく、先月と今月の数値を比較することで解約率(≒定着率)や顧客一人あたりの売上の変化がわかりやすいので、MRR では上についてのみを対象に計算します。

月額のプランの場合はその金額、年額プランの場合は 1/12 を含めます。 例えば年額12万円のプランの顧客が一人増えた場合、初月に12万円の売上が計上されますが、MRR では1万円だけ計上されます。この方法なら上述の初月だけ売上高く見える問題は起きません。

したがって、有料ユーザーが増えている局面では、ふつう MRR は売上より低くなります。

MRR の分類

チャーンレートを計算するためには、MRR を①解約、②下位プランへの変更など、③上位プランへの変更、④新規契約の4つに分ける必要があります。 このうち④の新規契約はチャーンレートには関係ありません。

  • Churn チャーン・解約(前月は有料顧客だったものの今月は有料顧客でない場合。MRR:有→0)
  • Contraction コントラクション(ダウンセル。前月も今月も有料顧客だがMRRが下がった場合。MRR↘)
  • Expansion エクスパンション(アップセル。前月も今月も有料顧客だがMRRが上ががった場合。MRR↗)
  • New 新規契約(前月は有料顧客でなかったものの今月は有料顧客の場合。MRR:0→有)

例えば、以下の図のようになります。

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前月のMRRが100万円だったとして、①Churnが5万円、②Contractionが3万円、③Expansionが4万円、④Newが15万円の場合、今月のMRRは、100-5-3+4+15=111万円となります。

ARR(Annual Recurring Revenue/年額定額収益)

(ARR) = (MRR) * 12

1年に決まって入ってくる収益です。 これは単純にMRRの12倍(1年は12ヶ月なので)となります。

サービスの性質によってMRRかARRのどちらかを追うことになります。 AutoScale では月額プランのユーザーのほうが多く、月次の売上と比較しやすいので MRR を見ています。

Churn Rate (チャーンレート/解約率)

ざっくりいうと前月の有料顧客が、今月はどのくらい課金してくれているかの割合です。

SaaS ビジネスにとって、Churn Rate は非常に重要な指標です。 SaaS というのは、毎月お支払いしてもらえるからこそパッケージ型の製品よりも月額は安価で提供できますが、すぐに解約されてしまっては回収できなくなってしまいます。

チャーンレートは毎月掛け算される複利の計算になるので、ちょっとした数字の違いで大きく結果が変わります。 例えば、チャーンレートが5%だと平均継続月数(∝LTV)は20ヶ月ですが、チャーンレートが6%だと16.7ヶ月まで減ってしまいます。

このチャーンレートには顧客数ベース(Customer Churn Rate/カスタマーチャーンレート)と金額ベース(Revenue Churn Rate/レベニューチャーンレート)の2種類があります。それぞれの定義は以下になります。

Customer Churn Rate(カスタマーチャーンレート)

(Customer Churn Rate) = (前月に有料顧客だったユーザーのうち今月も有料顧客だった数) / (前月の有料顧客数)

Revenue Churn Rate(レベニューチャーンレート)

(Revenue Churn Rate) = (前月の有料顧客からの今月のMRR) / (前月のMRR)

Gross Revenue Churn Rate

(Gross Revenue Churn Rate) = (Churn + Contraction) / (前月MRR)

Net Revenue Churn Rate

(Net Revenue Churn Rate) = (Churn + Contraction - Expansion) / (前月MRR)

Net のチャーンレートには既存顧客のアップセル施策の影響が含まれるため、解約する人を減らす系の施策の効果を見るときなどは、Gross Revenue Churn Rate を指すことが多いと思います。

一方で、売上の予測や全体をざっくり考えたい場合は、Net Revenue Churn Rate を見たほうが正確です。

ARPU(アープ、平均月間課金単価、Average Revenue Per User)

(ARPU) = (MRR) / (有料顧客数)

1アカウントあたりがいくら支払っているかという金額がARPUになります。

SocialDog のように無料プランと有料プランがある場合は、ARPPU (Average Revenue Per Paid User)と呼んで区別する場合もあります。

個人的には紛らわしいので口頭では簡単に「単価」などと呼んでしまうことも多いです。

LTV(エルティーブイ、顧客生涯価値、Lifetime Value)

(LTV) = (ARPU) / (Net Revenue Churn Rate)

1人の顧客が最終的にいくら課金するかいう金額です。

継続決済なのに最終的にいくら課金するなんてわからないわけなのですが、解約率が変わらないと仮定すると、以下の式で計算で求めることができます。

LTV はなぜこの式になるのか

ある顧客の売上の合計は、毎月の売上の和であり、解約率を確率と考えると毎月の売上の期待値は (ARPU) * (Net Revenue Churn Rate) となります。

解約率は0から1を取るので、これは等比級数の和の公式から (ARPU) / (Net Revenue Churn Rate) に収束するとわかります。

平均継続月数

(平均継続月数) = 1 / (Net Revenue Churn Rate)

Net Revenue Churn Rate が 5%なら20ヶ月、10%なら10ヶ月となります。

(LTV) = (ARPU) * (平均継続月数) とも言えます。こちらのほうが直感的ですね。

CPA / CAC (Cost Per Acquisition / Customer Acquisition Cost)

ユーザー一人あたりの獲得コストです。これは広告費と獲得できた顧客数の割り算で簡単に求まります。

例)10万円の広告費で100人のユーザーを獲得できた場合は、以下より1,000円となります。 (CAC) = 100,000円 / 100人 = 1,000円/人

LTV vs CPA で適正な広告費がわかってくる

さて、ここまでで LTV と CPA が計算できるようになりました。 SaaS の成否は、この LTV と CPA の比率にかかっています。

LTV と CPA の関係は、顧客をいくらで獲得して、その顧客がいくらの売上になるのか、ということになります。

そして、LTV > CPA なら儲かり、LTV < CPA なら儲からない、ということになります。

BtoB の SaaS の場合、3 * CPA = LTV くらいだとちょうどよいと言われているそうです。が、正直結構きつい数字だと思いますw

うちくらいの単価のサービス、そこまで特に体力のないスタートアップだと、LTVは6ヶ月、長くても12ヶ月くらいで見ているところが多いんじゃないでしょうか(広告費が先に出ていってそれを1年で回収とかはキツイ、1年分の資金がないとショートしてしまう)。

どうやって使う?

上記の指標はこんな感じで使います。

例1:売上が上がっている/下がっている要因がわかる編

対象月 月末MRR Churn New
9月 100万 5万 10万
10月 130万 10万 40万
11月 135万 35万 40万

11月は、10月と比べると MRR が あまり伸びていない。その要因は既存顧客の解約であり、新規顧客獲得ではない。

例2:リスティング広告のクリック単価編

「CPA が 5,000円、ARPU が 750円、Net Revenue Churn Rate が 5%くらいです」と言われたら:

「LTV が 15,000円(750 / 0.05)なので、CPA 5000円くらいならよいか、リスティング広告でクリックから有料顧客になる割合(CVR)が1%であればクリック単価50円だと妥当」かな

実際にはCPAやLTVは顧客の獲得経路により大きく異なります。ふつう獲得経路別(SocialDog の場合、リスティング広告、オウンドメディア、アフィリエイト、オーガニックなど)にCPA, LTVを計算しています。

おすすめ SaaS メトリクス分析 SaaS

MRRやARRの計算をちゃんとやろうとするとかなり複雑になります。 当月のMRRやARRの計算だけでも、年額プランのユーザーを12ヶ月に配分しなければなりませんし、ChurnRateについてはすべての売上を前月の売上かどうか判別する必要があります。

ここは、これらのメトリクスと計算してくれる SaaS に頼りましょう。 Stripe や Paypal, iTunes Connect などの決済データを取り込んで、勝手にMRRやChurnRateを計算してくれるSaas を紹介します。

Baremetrics

Stripe, Braintree, Recurly に対応しています。今年デザインがリニューアルされてかっこよくなりました。 SocialDog でも契約して使っています。

なんとBaremetrics ではMRR 数十万円から数億円までのスタートアップ20社のダッシュボードが公開されています!かなり雰囲気がつかめますのでおすすめです。

Open Startups - Baremetrics

こんな感じで非常に見やすいです。

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Buffer 社の MRR

ChartMogul

Stripe, Paypal, iTunesConnect に対応しています。iOS のアプリ内課金があるならこれですね。

ProfitWell

Stripe, Braintree, Zuora, ChargeBee, Recurly, Paypal, Chargify に対応しています。

なんと無料です!対応している場合は、まずは登録することをおすすめします。ただし iTunes Connect には対応していません。

ちなみにサービスごとに、MRR の分類方法、Churn の計上タイミングが若干異なります。 基本的にはそんなに変わりませんが、数字を見る際は各サイトの表示をご覧ください。

参考文献